大判例

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大阪地方裁判所 昭和45年(ワ)672号 判決

原告

吉村高子

被告

江島英樹

ほか一名

主文

被告らは、各自原告に対し、金二一二、五七〇円およびこれに対する被告会社は昭和四四年六月二五日から被告江島は同年同月二七日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の負担とし、その一を被告らの負担とする。

この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

但し被告らが各金一七〇、〇〇〇円の担保を供するときは、その被告は右仮執行を免れることができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

一  被告らは、各自原告に対し、金六七二、五七〇円およびこれに対する訴状送達の翌日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決および仮執行の宣言。

(被告)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二請求の原因

一  事故

被告江島は、昭和四四年六月二七日午後六時頃、大阪府北河内郡内郡交野町郡津五七六番地先路上において、自動車(大四め七四八〇号)を運転中、停車中の訴外佐藤里子所有の自動車(大五に六六四五号)に接触させ被害車に右フエンダ打損の損害を与えた。

ところが右事故の損害額について原告と被告江島は口論となり、江島は物損の見積のため修理工場に行こうと称して被害車に乗り込み、原告の意思に反して原告を同乗させたまま、時速一〇〇キロ前後の高速度で、かつ度々信号無視運転をしながら京都伏見まで走行し同女を車内に監禁した。

原告は、ようやく赤信号で停車した被害車から飛び降り付近のガソリンスタンドに救を求めたが、被告江島は更に被害車を走行させ、同車を宇治川に侵入させて柵にぶつけたまま放置した。

二  責任原因

(一)  被告江島はハンドル操作を誤つた過失により接触事故を発生させ、更に故意によつてその後の一連の行為をなした。

(二)  被告会社は、本件加害車を業務上保有し従業員である被告江島にその使用と保管を職務として命じていたもので被告江島がその業務である運転に際して生じた本件接触事故及びその後の同人の一連の犯罪的行為による損害につき使用者として賠償すべき責任がある。

三  損害

(一)  修理・整備費及びレツカー車代二四二、五七〇円原告は、昭和四六年六月一九日、訴外姉の佐藤里子から、同人の被告らに対する損害賠償請求権及び遅延損害金請求権を譲受けた。

そして、右佐藤は右同日付の確定日付にある書証によつて右債権譲渡を被告らに通知した。

(二)  慰藉料 三五〇、〇〇〇円

原告は被告江島に被害車内に不法監禁されて車を暴走運転され、この間手を握られたり、遊びに行こう等と云われたり、恐怖と心配、不安の状態におかれた。これによつて原告の受けた精神的苦痛は甚大で、本件事故後数日間はボーつとしていた有様であつた。

(三)  弁護士費用 八〇、〇〇〇円

四  よつて、原告は被告らに対し、右合計六七二、五七〇円及びこれに対する訴状送達の翌日から右支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三被告らの答弁と主張

(被告江島)

一  本件事故の発生、物損の事実は認めるが、慰藉料額は争う。昭和四四年六月二七日午後六時頃大阪府北河内郡交野町郡津五七六先の道路上で、自動車(大四め七四八〇号)を運転中、事故防止のためハンドルを切つた所、対向車(大五に六六四五)と接触。傷を作りました。

当時私は酒を飲んでいたため、行政処分を恐れ、当事者間で、示談しようと思い、見積り金二〇〇〇円を申し出ましたが、吉村さんに不足だと云われ、私自身も思い違いと思い再び五、〇〇〇円也を条件に出しましたが、再度不服とされたので、第三者の見積りによつて納得してもらうため、工場に行く事を提議し了解を得ました。先ずは彼女運転で走り出しましたが彼女の道不案内の為、途中から運転をかわり交野鈑金(株)へ向かいましたが、時間的に遅かつたのでしよう閉つておりました。そこで国道ぞいになら工場はあるだろうと話し一号線を京都に向つて走行しました。酒を飲んでいましたし、示談を急ぐ事で頭が一杯でした。私が急ぎすぎた為だと思つていた事ですが、示談もすまないのに吉村さんが車から降りると云いだされ、私はもうすぐ解決できると云い降りるのを辞めてもらおうと頼みましたが、どうしてもと、云われるので左後方を確認し、車を道路の左はしによせて吉村さんをおろしました。その後警察官でもやつて来て、事故を大きく取り上げられるのはかなわないと思い、私一人でも見つもりを取ろうと、そのまま車を運転して大阪方面へ向うため、Uターンして走行しました。途中提(堤)防止を走行中小用をたそうと思い車を止めて、サイドを引き降車した所、車が一人でに走り出し宇治川へ走り込んでしまい事故の結果となりました。

二  物損害に対しては全面的に支払わせていただき、一日も早く罪をつぐないたいと願つております、慰藉料、弁護士費用等は、公明な判決に従がわせていただきます。

三  被告江島は原告に対し

昭和四五年一〇月一三日 二〇、〇〇〇円

同年同月二九日 一〇、〇〇〇円

同四六年三月二日 三〇、〇〇〇円

計六〇、〇〇〇円を支払つている。

四  被害車の査定価格は一四〇、〇〇〇円程度のものであり、原告は被告江島に事前連絡なく右修理がなされたものであつて修理費の主張は不当である。

(被告会社)

一  請求原因第一項は不知。同二項(一)は争う。(二)のうち被告会社が加害車を業務上保有すること、被告江島が被告会社の従業員であることは認めるがその余は争う。

同三項は争う。

二  被告江島は、私用で被告会社所有の自動車を運転してはならないとの規則に違反し、被告会社に無断で本件事故当日午後五時頃、退社後自宅から寿司を食べるため加害車を私用運転中、本件事故を発生させたものであつて、被告会社の事業の執行についての事故ではない。従つて、被告会社には接触事故についても責任はない。仮に接触事故が被告会社の事業の執行についてなされたものであると認められるとしても、被告江島のその後の一連の行為は被告会社の事業の執行とは何らの関係がない。

被告江島が接触事故の後に原告と示談交渉しても、それは被告江島が自己のためになした私的行為であつて、被告会社が使用者責任を負うとしても、当の加害者である者を代理人として交渉に当らせると云うことはなく、右示談交渉が被告会社の事業の執行についてなされたものとは到底解し得ない。

仮に、被告江島の示談交渉が被告会社の事業執行に属するとしても、被告江島のその後の一連の行為は接触事故の示談交渉を口実として又は際して為された被告会社の事業執行とは何の関係もない被告江島の故意に基く行為であつて、被告会社が責任を負うものではない。

三  原告は訴外佐藤里子から同人の損害賠償請求権を譲受けたと主張するが、右は本件訴訟提起後であり、明かに訴訟を目的としてなされた譲渡であつて信託法一一条により許されない。

四  相被告江島の答弁三項を援用する。

原告の答弁

一  被告ら主張の一部弁済の抗弁は認める。

なお原告は被告江島から更に昭和四七年七月一八日に四〇、〇〇〇円の支払を受けた。

従つて内入金は合計一〇〇、〇〇〇円となる。

二  被告会社の信託法違反の主張について

被害車の所有名義は訴外姉佐藤里子であつたが、原告が本件事故前から専ら利用しており、運行管理は一切原告に委ねられていたもので本件事故に関する示談交渉等も原告において当初から行つて来た。従つて実質的には原告が所有者、少なくとも原告と里子との共有であつたものである。

信託法一一条の趣旨は乱訴と弁護士代理の原則とを潜脱することを防止するためであるから、本訴においては何らかかるおそれがない以上、被告会社の主張は当らない。

三  物的損害については訴訟前には、原告、被告間においては争がなかつた、被告江島は本訴答弁においてもこれを認めている、原告はこれを利益に援用する。

〔証拠関係略〕

理由

一  原告と被告江島間において、本件事故の発生及び物損は争いない。

二  本件事故、物損(原告と被告会社間)及び監禁(原告と被告ら間)

被告江島は、昭和四四年六月二七日午後六時頃、大阪府北河内郡交野町郡津五七六番地先路上において、自動車(大四め七四八〇号)を運転中、運転操作を誤り、対向車線を進行中の原告運転の訴外佐藤里子所有の自動車(大五に六六四五号が危険を感じて停止したところに衝突し、右フエンダー打損の損害を与えた。

右接触事故直後、被害車の損害額について、被告江島が二、〇〇〇円と主張し、原告がこれに不満を述べ、話がまとまらなかつたので、原告が警察に行こうと提案被告江島もこれに応じ被害車に同乗し約三〇〇米進行したところで、被告江島が接触場所をもう一度見よう、これを二、〇〇〇円で直す修理工場へ行こうと云い出し、運転を交代し、枚方方面に向け発進した。被告江島は原告が降車したいと云い出したが、時に高速運転をし、或は原告の手を握り、遊びに行こう等と話しかけ、国道一号線を京都に向つた。

途中、被告江島が停止信号のため停車した際原告は降車し、附近のガソリンスタンドから警察に電話した。一方、被告は一人でも見積をして貰うべく今度は大阪方面に向け走行を始めたが途中、宇治川堤防上で停車して降車した際、停車方法が不完全であつたため被害車を宇治川に滑り落し、水没させた。(〔証拠略〕)

三  被告江島の責任

原告主張の被告江島の責任原因については被告江島において明らかに争わないので自白したものと看做す。

四  被告会社の責任

被告会社が加害車を保有し、被告江島の使用者であることは当事者間に争いがない。

被告江島の住所は勤務先である被告会社鴻池販売所まで遠いため、被告会社は被告江島に加害車を貸与し、保管させていた。(〔証拠略〕)

そして、被告江島は退社後、私用で加害車を運転中(〔証拠略〕)、前記認定の如き接触事故及びその後の一連の事故を発生させた。

してみると、被告会社は、自己の企業活動を効率あらしめるため企業の構成員である被告江島に加害車を貸与、保管させていたものであり、被告会社内部の規制はとも角、加害車を通勤用にのみ使用するか、又更に私的目的のためにも流用するかは被告江島の随意であり、右の主観的使用目的の差は第三者には区別出来ないものであり、従つて、被告江島の加害車の運転行為は客観的、外観的には被告会社の事業執行につき為されたものと云わざるを得ない。

又、接触事故後の被告江島の一連の行為は右認定の事業執行行為中に発生した接触事故と密接な関係にある物損額の紛争から発展したものと云うべく使用者である被告江島が被告会社の事業の執行につき加えた損害に当るものと解するを相当とする。

そして〔証拠略〕によれば前記認定の接触事故及びその後の一連の行為は被告江島の過失及び故意によるものと認められる。結局被告会社は使用者として、被告江島と共に次のとおりの損害額を賠償する義務がある。

五  損害

(一)  修理費 二四二、五七〇円

(〔証拠略〕)

被害車は、訴外佐藤里子が購入したものであるが、同人は休日等にドライブなどに使用し、日常は原告が通勤用に使用し、経費は両者が折半したが、使用回数時間は原告の方が多かつた。(〔証拠略〕)

してみると被害車はいわゆるフアミリカーの性格を有するものと云うべく、右訴外人が損害賠償請求権を妹の原告に譲渡しても右が信託法一一条に違反するものとは解されない。

(二)  慰藉料 五〇、〇〇〇円

前記認定の事実及び本件証拠により認められる諸般の事情を総合すれば、慰藉料は右金額をもつて相当と認める。

(三)  弁護士費用 二〇、〇〇〇円

右金額をもつて、本件事故と相当因果関係ある損害と認める。

(四)  損害の填補 一〇〇、〇〇〇円

原告の自認するところである。

六  よつて、原告の本訴請求は右認定の残額二一二、五七〇円及びこれに対する訴状送達の翌日(被告会社は昭和四五年二月二五日、被告江島は同年同月二七日)から年五分の割合による遅延損害金の支払の限度において理由があるのでこれを認容し、その余はこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を仮執行及びその免脱の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 菅納一郎)

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